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●2017年6月末日用事務所だより


●2017年6月末日用事務所だより

第1 税務・会計・法務情報

 《1》相続時精算課税は危険な贈与方法

 「2500万円まで非課税」というのは、大きな勘違いになり得ます。
 相続時精算課税制度の落とし穴について、弊所のセミナー資料からご紹介します。

○相続時精算課税制度の落とし穴

  …… 2500万円の特別控除額は非課税枠ではありません。
  …… 将来の相続税基礎控除の先食いだと考えた方がよいでしょう。

  …… 子が2人以上ある場合、この点が先鋭化します。

┌─▲事例▲─────────────────────────┐
│ 兄に相続時精算課税枠で2500万円の贈与を行った。相続が │
│ 生じて、弟が「どうしてオレは貰えなかったのと」言った。 │
│ 税負担も、相続時精算課税を使って贈与した分が相続財産に │
│ 加算されるので、余計不満な気持ちがあるようだ。 │
└──────────────────────────────┘
  …… 相続人が1人なら、自分の税金先送りは、まだ納得できます。
  …… 貰ってない子は、税負担が余計に乗っかってくる印象があります。

  …… 生前贈与は、民法上の特別受益などの議論も生じてきます。
  …… 暦年贈与は、税法では生前3年割り切りですが、民法は別です。

  …… 寝た子を起こす場合があるので、十分な注意が必要です。

  …… また、相続時精算課税は、価額だけが相続財産に加算されます。
  …… つまり、現物が消失していても課税されます。

┌─▲事例▲────────────────────────┐
│ 自宅を生前贈与でもらい、精算課税制度を選択して申告した │
│ 翌年家が火事で焼けてしまった。 │
│ その翌年父親が亡くなった。 │
└─────────────────────────────┘

  …… 精算課税贈与をしなければ、相続財産がないので課税なしでした。
  …… 相続時精算課税制度から暦年課税へは戻れません。

┌─▲事例▲──────────────────────────┐
│ 父からの贈与について精算課税申告をした翌年に100万円を父から │
│ もらった。 │
│ 基礎控除110万円の範囲内だから申告は不要でよかっただろうか。 │
└───────────────────────────────┘

  …… 暦年課税の基礎控除がなくなることはうっかりしやすい点です。
  …… 極端な話、1円の贈与でも申告が必要です。
  …… 相続時精算課税制度を選択外の贈与は暦年課税です。

┌─▲事例▲─────────────────────────┐
│ 母が数年前に亡くなり、この度父親から贈与を受けた。 │
│ 子供は私一人で相続税の基礎控除は6000万円ある。 │
│ 父親の全財産は5000万円だから、将来の相続税はない筈だ。│
└──────────────────────────────┘

  …… 基礎控除の額は、将来も保証されているわけではありません。
  …… 検討された遺産取得者課税になると、基礎控除は変わるはずです。
  …… 本当に相続税が掛からないという保証は、誰にもできません。

  …… それ以外にも注意すべき点は、いくつもあります。
  …… 受贈者が先に死亡した場合は、二重課税を受けるようになります。

  結論 …… 相続時精算課税による贈与の選択は、慎重に行う必要があります。

 《2》NISA口座保有者は、個人番号告知がないと来年から買付け・買増し不能に

 NISA口座を持つことがいいのか悪いのはさておき。
 一応、お知らせしておきます。


平成29年6月12日
金融庁
NISA口座をお持ちの方へ:ご利用の金融機関にマイナンバーの告知をお願いします。9月末までの手続きがスムーズです。

 NISA口座をお持ちの方が、来年1月以降にNISAで買付け・買増しをするには、金融機関へのマイナンバーの告知等の手続きが必要です。

 マイナンバーの告知は、本年9月末までに行っていただくと便利です。9月末までであればマイナンバーの告知(注)だけですが、10月1日以降は、金融機関に「非課税適用確認書の交付申請書」を提出いただくことが必要になります。また、年末が近付くと、新年当初からの買付けには間に合わないこともあり得ます。

 なお、マイナンバーの告知がない場合でも、NISA口座は失効しません。口座内で既に保有している金融商品は、引き続き、非課税で保有できますし、売却も自由です。NISA口座自体もなくなりません。

(注) マイナンバーの告知にあたっては、マイナンバーの通知カードかマイナンバーカード、本人確認書類等をご用意いただくことが必要です。詳しくは、ご利用の金融機関にお問い合わせください。

http://www.fsa.go.jp/policy/nisa/20170612-1.html


 《3》株式評価通達改正・広大地通達廃止により「地積規模の大きな宅地の評価」へ

 最近、財産評価基本通達の改正が続いています。

 まず、株式評価方法の改正は、平成29年分より適用になります。
 今年の相続・贈与からは、新しい評価方法によることになります。

 改正点は多岐にわたりますが、利益のウエート付けが落ちるのが一番です。
 従来の株価引き下げ策の効果が落ちる場合が多くなります。

 ただし、納税者有利な改正部分もありますので、一概に増税とは言えません。

 次に、広大地評価通達が廃止されました。
 代わって、「地積規模の大きな宅地の評価」通達が新設されます。

 こちらは、平成30年分からの適用で、現在パブリックコメント中です。
 評価方式が、かなり計算上の割り切りによる部分が増えるようです。

 結果として、広大地評価の評価減よりも減額幅は減る場合が多いようです。
 また、形状補正が入りますので、一般の宅地評価の延長線上の位置づけになります。

 関係する業界の皆さんは、改正の動向に注意される必要があるでしょう。

 《4》相続税事案は課税の最後の砦

 以前から言われていることですが。
 「相続税事案は課税の最後の砦」だと。

 やはり、課税庁の意識として、明確に認識していますね。
 だからこそ、次がある所得課税とは調査の密度も比較にならないわけですが。

 で、将来のための資料抽出を各部門に協力依頼している。
 注目すべきは、

「現役時代における実地調査等の際の資産の保有状況及び運用状況を把握することは、将来の相続税の課税対象者や調査事案の的確な抽出に非常に有効な資料となる」

 ですね。

 広島局からスタートしたと言われるプレ相続税調査としての所得税調査。
 今や、有効性が認められて、全国で実施されていると聞きます。

 これの位置づけは、まさにこれでしょう。
 いや、「プレ相続税調査」という表現をしたら、調査官に苦い顔されましたけど。


KSK相続税システムの蓄積資料について

1 蓄積資料の充実の必要性

 臨時・偶発的に発生する相続税や譲渡所得などの資産税事案は、資料情報があって初めて課税対象者の把握が可能となることから、これまで蓄積された個人についての資産の所有等の情報(以下「蓄積資料」という。)が極めて重要なものとなる。

 特に、相続税事案については、課税の最後の砦としての役割を有することから、当部門においては、高額譲渡事案の調査や高額資産の所得者に対する照会等により、現預金や有価証券、海外資産等に係る財産の保有情報や金融機関等を把握し、これらの情報を相続税システムへ入力している。

 しかしながら、相続開始時点においては、現役から退き、隠居している者も多いことから、当部門のみの取組では不十分であり、現役時代における実地調査等の際の資産の保有状況及び運用状況を把握することは、将来の相続税の課税対象者や調査事案の的確な抽出に非常に有効な資料となるため、協力をお願いしたい。

(情報開示請求資料より)


 今まで以上に、各部門の連携が意識されてくるのでしょう。
 人材交流の取り組みも、その一環なのでしょうね。

 《5》中小企業庁の経営強化法関係資料の更新

 中小企業庁の手引き関係が、幾つか更新されています。
 更新一覧に出さないのが、不思議ですが。

経営力向上計画策定の手引き(平成29年6月9日更新)
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/2016/160701tebiki.pdf

税制措置・金融支援活用の手引き(平成29年6月9日更新)
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/2017/170407zeiseikinyu.pdf

事業分野と提出先(平成29年6月1日更新)
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/2017/170407jiigyouteisyutu.pdf

 「税制措置・金融支援活用の手引き」は「平成29年度税制改正対応版」です。
 早めにダウンロードしておきましょう。

 それにしても、中小企業庁は、どうしてファイル名の日付を変えないのでしょう。
 更新日以外がファイル名だと古いものかと錯覚してしまうのは、私だけなのか。

 《6》マルサ摘発の脱税事件 消費税関連が大幅増(NHK)

 査察の概要が公表されました。

平成28年度査察の概要(平成29年6月)
https://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2016/sasatsu_h28/01.pdf

 消費税輸出免税還付事案・国際事案・太陽光発電などが主眼だったと。
 東日本震災関係の脱税もしっかり摘発されているのですね。

 で、建設業や不動産業が告発の多い業種の1位・2位ですから。
 東京五輪中心のバブルが想起される感じでしょうか。

 個人的には、NHK報道に出ている、刑事告発事案の報道発表が注目されます。
 デジタルタトゥーが問題になる時代、怖いですね。

 下手をすると、本人だけでなく、家族まで、人生のどん底になります。
 脱税の代償は、極めて大きくなったと注意すべきでしょう。


マルサ摘発の脱税事件 消費税関連が大幅増
6月15日 17時16分

 (略)

刑事告発した脱税は報道発表へ

 国税庁は、ことし4月以降に、全国の国税局が脱税の疑いで検察庁に刑事告発した事案について、その概要を報道発表していくことを決めました。

 国税庁はこれまで、守秘義務などの観点から発表していませんでした。
告発したすべての事案について、検察庁の捜査に支障が出ないと判断した段階などで、告発した個人や法人の名前や職業、業種などのほか、脱税の手口や脱税額などを明らかにすることにしています。

 国税庁調査査察部の八原正夫査察課長は「国民に査察の取り組みを知ってもらうことを通じて、税に関する犯罪を予防し、納税意識を高めていただきたい。査察は悪質な脱税者を摘発することを通じて、申告納税制度を守る最後のとりでという使命を担っており、国民の期待に応えていきたい」と話しています。

 (略)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170615/k10011018781000.html


 《7》特定医療法人制度FAQが国税庁から出ました


特定医療法人制度FAQ(国税庁)
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/iryo/annai/pdf/seido_faq.pdf


Ⅲ‐8 理事が代表を務めるMS(メディカル・サービス)法人を設立している場合、当該MS法人から物品の購入をする際に、理事会の議事を経ずに購入を決定していますが、問題となることがありますか。

【答】

 医療法人の役員が営利法人の役員を兼務することは、医療法人に求められる非営利性の観点から、適当でないとされています。ただし、厚生労働省「平成24年3月30日医政総発0330第4号(最終改正)『医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について』」第一1(2)④(www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/tuchi/050203.pdf)において、例外的に可能となる場合があります。また、取引内容については、関係事業者との取引の状況に関する報告書等を作成のうえ、都道府県知事に対し報告が必要です(医療法第51条第1項及び第52条第1項)(詳しくは、厚生労働省医政局医療経営支援課へお問合せください)。

 なお、兼務する場合は、いわゆる利益相反取引になりますので、医療法第46条の6の4の規定により、事前に理事会での承認が義務付けられていることから、必ず理事会の議事に諮るとともに、議事録に記録することが必要です。したがって、事前に理事会で承認を経ない場合や、必要な議事録を記録していない場合は、原則として、2号要件を満たさないこととなります。

 また、理事会の議事を経たとしても、それが一部の者によって個人的に使用されている場合は、特別の利益を与えていると認められ、3号要件を満たさないこととなります。



Ⅳ‐5 当医療法人では、役職員に対する金銭の貸付制度を設けていませんが、この度、一部の理事から臨時に金銭が必要になったとのことで、借入れの申出がありました。どのように取り扱えばよいでしょうか。

【答】
 厚生労働省から公表されている医療法人の附帯業務に関する通知によると、役職員への金銭等の貸付けは、福利厚生として、全役職員を対象とした貸付けに関する内部規定を設けて行う必要があり、一部の役職員に対する貸付け及び貸付規定を設けていない場合の臨時の貸付けは、認められていません(※)。このような貸付けは、特別な利益を与えることになり、特定医療法人の要件にも抵触すると考えられますので、内部規定を設けた上で、制度に基づいた貸付けを実施する必要があります。

※ 厚生労働省「平成28年5月27日医政発0527第28号(最終改正)『医療法人の附帯業務について』」別表留意事項1(www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000096727.pdf)
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第2 研修会・執筆情報

 《1》外部研修会情報

 現在のところ予定はありません。

 《2》執筆情報

1)税務通信3461号(2017年06月12日)に実例から学ぶ税務の核心<第10回>が掲載されました。

 いつもの大阪勉強会グループによる執筆で、内容は、「自社株評価通達の改正」となっています。

「自社株評価通達が改正され,平成29年分の評価から適用されることとなった。なかには,影響が大きな項目や,うっかりしやすい項目もある。実務家として対応が必要な事項を中心に,ポイントを確認しておきたいところだ。」

 なお、第9回(最近の事業承継スキーム報道を読み解く③総則6項による否認事案(その2:キーエンス事案))は、「マイ記事」登録ランキング(No.3456 平成29年5月8日号)で、第5位にランクインしていました。

第3 PC関係

 今月は特にありません。

第4 その他

 《1》「荷物を受け取るだけのアルバイト」という詐欺が発生中! そのカラクリを知ると恐怖しかない(ねとらぼ)

 改めて、身分証明書を迂闊に示せない時代だと感じますね。


 言及されているのは、仕事を始める際に身分証明書の提示を求められるケース。自宅に届いた荷物を転送すれば報酬がもらえますが、実際に自宅に届いているのは、身分証明書が悪用され、自分名義で契約されたスマートフォンや通販で購入された健康食品などで、数カ月後に自分宛に請求書が届き、だまされていたことに気が付くというものです。その際にはアルバイト先には連絡が取れなくなっています。

「荷物を受け取るだけのアルバイト」という詐欺が発生中! そのカラクリを知ると恐怖しかない(ねとらぼ)
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1705/29/news157.html


 相手を信用できるかどうか。
 そこから入らないと、怖すぎます。

 失礼だと言われても、事実、こういう問題が起きている時代ですから。

 《2》野村証券元社員 客にカードの再発行勧める手口で(テレビ朝日)

 (略)

 《3》認知症「前段階」半数は回復…高齢者調査(読売新聞)

 (略)

 《4》中国に入れ込んだ代償…現地子会社の不正見抜けず(産経新聞)

 (略)